Meyco's thoughts

ただのポエムです

自分の仕事をつくる 西村佳哲(ちくま文庫)

会社を辞めてすぐ、最低2ヶ月は読書期間にしようと思っていました。本をさがしていた時にたまたまネットでこの本を見つけたのですが、決め手が評価が高かったのと、コメントがデザイナーの方ばかりだったので、特に深く考えずに購入。今ではすっかりバイブルです。

この本は、いわゆるインタビュー本の分類なんじゃないかなと思います。著者の方がとても面白くて、自分で「働き方研究家」と名乗るぐらい、つねに「いい仕事の仕方」を考えていらっしゃる方です。また、多摩美術大学でデザイン・プランニングを教えてる方で、内容がかなりデザイナー寄りではあるのですが、それでも「つくり出す」事に関係のある人であれば、色々な業種の方に読んでいただきたい本です。

この本で紹介してる人々は、インテリアデザイナー、プロダクトデザイナーモデラー、設計集団、パン屋、シェイパー(サーフィンのボードを作る人)などなど、本当に様々な業種の方にインタビューをしています。唯一共通しているのは、皆さん「いい仕事をしている」という事です。

いい仕事って何?自分もいい仕事がしたい!と思った方は、本当におすすめ。

本書の中で説明してる「いい仕事のコツ」を、一部だけかいつまんで紹介します。

「こんなもんでいいでしょ?」デザインが疲弊している事実

コストの削減、製作時間の短縮化、大量生産などの現実に疲弊し、悲しいことに世の中には「こんなもんでいいでしょ?」のデザインが溢れているのも事実です。それでも一方では、丁寧に時間をかけられた仕事があります。

私たちは、直感的に「いい仕事」を見分ける能力を持っています。なので、本当にいい仕事に触れた時には、皆嬉しそうな顔をします。なぜなら、それを選んだ人たちには、その素晴らしい仕事に触れる価値があったからです。

「こんなものでもいい」という概念に幼少時から触れていると、ボディーブローのようにじわじわダメージを蓄積し、人の成長に、どのような影響を与えるのではないでしょうか。それは少なくとも、手に取る人間の価値を否定することになるかもしれません。

働き方が違うから、結果ももちろん違う

これは最近日本でも問題視されている話ですが、情熱が無いまま残業をすると、ストレスしか残りませんので、いい仕事ができません。

本書で紹介されてる八木保さん(サンフランシスコでデザインディレクターをしている方。東急ハンズなどのグラフィックデザインや、ベネトン社の香水パッケージなど作った方)が、とてもおもしろい事をおっしゃっていました。

仕事中の食事はどうするのか?という質問に

「みんなで一緒に食べます。デリバリーを頼んだ時は、必ずセラミックの皿に移し替えて食べるし、プラスチックのスプーンなんて、絶対に使わせない。」

プロダクトデザインに関わっている以上、いいものに常に触れるようにしているのが、素晴らしい徹底ぶりだとおもいます。

また、プレゼンテーションではかなり気を使っているそうで、

「僕らは報告書を持っていくわけじゃないからね。匂わせたり、触らせたりしないと【気持ち】は通じないでしょう。コミュニケーションっていうのは喋ることじゃない。」

という言葉が、とても素敵です。

私達が本当にデザインしなければいけないのは、【経験】である

UX(User Experience)という言葉が好きではない私ですが、PVとれるし流行りだからとりあえず使っとくか・・・という事がたまにあります。

もともと、私達が作らなければいけないのは、モノを使った、見た、食べたetc…その先にある「経験」のはずです。なぜ今になって騒がれているのでしょうか。デザインが多様化したせいでしょうか。大事な部分がおろそかになっていたので、もう一度見直すタイミングになったのでしょうか。

アップルコンピューターの「PowerBook duo」という初のラップトップができた時、使った人は素晴らしい経験をしたはずです。

色や形は、プロダクトデザインの魅力の一部に過ぎず、本当の魅力はデザインを使った事による経験です。例えばコーヒーカップ単体ではなく、コーヒーカップで飲むことの幸せや、車だったらドライビング時の乗り心地、PCだったらアニメーションの滑らかさ、インターフェースの良さなどなど。

五感の豊かさは、人生の豊さだと、本書では書いています。私もそうだと思います。

ファシリテーターというマネージャーのお仕事

ファシリテーター(容易にする、促進する)は本書ではかなり重要なキーワードです。仕事を支援し、促進する役割を担っている人のことです。(※トップダウン型のリーダーシップとは違います)スポーツ選手のコーチのイメージ。

スタッフは会社の資源です。ですが、スタッフが疲弊すれば、売上も仕事の質も落ちてしまいます。

じつは、強力なリーダーが1人いることが、常に最善な訳ではない。という事が書かれています。

人々の所有欲求は飽和し、今は作るべきものが明確な時代ではないからです。私たちは本当に欲しいものを探している時代に生きています。

ファシリテーターは、これからのプロジェクトマネージャー像になるのではないでしょうか。

モノをつくる以上、それが永久に存在するつもりで作る

以前はWEB制作会社に勤めていましたが、今はウェブ業界自体が、どんどん疲弊のスパイラルに陥っているように思います。コストの関係やドメインの取得期間、キャンペーンサイトなんかは一時的であることが多いです。

消えると解っているモノを作ることは、本当に辛いです。

話題にも上らず、誰にも見られることもなく消えていくモノを作るのを、喜ぶ人がどれだけいるのでしょうか。それでも、私たちは情熱を持ち、常に人に喜んでほしいと思っているから作ることを辞めません。

私の今の仕事は、半永久的に世の中に残るであろうモノを作る仕事です。例えそうではなく、話題に上ることがなくても、私はそう思って作っているので、それはそれで幸せです。

でも、やっぱりもっと有名になってやろう!とはもちろん思っていますが。

頼まれもしないのにする仕事

日本社会では、「誰からも頼まれてないのにする仕事」に対して、馬鹿にされたり、ちょっと冷たい態度をとられる事が多いです。(もちろんタイミングもありますが)

でもよく考えて欲しいのですが、ジョブズビル・ゲイツも、誰かから仕事を頼まれたでしょうか?

本書では、デザインという仕事の本質は【提案する】事の方にあるのだと書かれています。

デザインの仕事はクライアントから提案されるもので、それ以外はアートでしょ?と思う方もいるかも知れませんが、実はそうじゃないです。バウハウスから生まれたデザインがそうではないのでしょうか。

世の中の素晴らしい先駆者たちは、情熱を持って「これは世の中に必要だ!」と本気で信じて作っていました。

イタリアの大学のデザイナーは、学校を卒業した瞬間からフリーランスになるそうです。従って彼らは、自分のデザインをアートディレクターや企業に持込み、こういうモノが足りないんじゃないか。まだ存在しないんじゃないか。これは人々が待ち望んでるに違いない!と言い、自ら仕事を作り出します。

おわりに

ものづくりを突き動かす感情は、高い熱量が必要です。

正直、それが「怒り」でも「情熱」でもどちらでも良いと思っていて、(もちろん気持ちよく使っえるのは情熱の方が多いと思いますが)

それらの高い熱量を生み出すためには、豊かな環境と体力かなと思います。

体力が無いと「これでいいかな。」と思ってしまう事が多いと思うので、それはやがて身の回りを埋めつくす事になります。そして行く行くは業界自体の疲弊になってしまうので、これから未来を生きなければいけない人間として、正直それは回避したいです。

他にも沢山ご紹介したいことが山盛りなのですが、ものすごく長くなってしまうので、この辺で。本当に素晴らしい本なのでぜひ。